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発狂の抑止|第1回:発狂感とは何か?

📘 発狂の抑止|第1回:発狂感とは何か?

こんにちは。
この1回目では、あなたが感じる「ああ、自分は壊れてしまうんじゃないか」「このまま発狂してしまうのでは」という強烈な感覚――それが何者で、どこから来るのかを一緒に見ていきます。

この「発狂感」を理解することは、自分自身を守る第一歩です。
この講義は、科学的根拠に基づきつつも、あなた自身の体験と感覚を出発点に据えて進めていきます。


❓ 発狂感とはなにか

「発狂感」という言葉に正式な精神医学の定義はありません。ですが臨床では、以下のような状態にしばしば重なっています。

  • 自分が自分でなくなるような感じ(離人感/解離)
  • この現実が現実でないように思える(現実感喪失)
  • 考えが止まらず、脳がパンクしそう
  • このままでは理性が崩れてしまうと感じる
  • パニックの中で、「もう終わりだ」という感覚が迫ってくる

これらはパニック障害、PTSD、解離性障害、あるいは双極性障害の混合状態などの中でもよく報告されます。


🧠 脳の中で何が起きているのか?

「発狂するかもしれない」と感じるとき、あなたの脳の中では原始的な恐怖の回路が暴走しています。

特に重要な3つの構造があります:

  1. 扁桃体(amygdala)
     脳の中で「恐怖」を判断するセンサーのような存在。
     ここが危険信号を感知すると、全身に「非常事態発生!」とアラートを送ります。
  2. 視床下部(hypothalamus)
     アラートを受けた視床下部は、心拍・呼吸・血圧・発汗をコントロールする自律神経系に命令を出します。
     つまり、「心臓がバクバクする」「息が苦しい」「手が震える」という身体症状は、ここが原因です。
  3. 前頭前野(prefrontal cortex)
     理性的な思考・感情のコントロールを担う司令塔。
     でも強い不安や恐怖にさらされると、前頭前野の機能が落ちるのです。

つまり:

恐怖のセンサー(扁桃体)が暴走
→ 身体が“戦うか逃げるか”モードに突入
→ 理性のブレーキ(前頭前野)は効かなくなる
→ 「私はもうダメだ」「自分が崩れていく」ように感じる

これが「発狂感」の正体です。
あなたは壊れているのではありません。むしろ「正常な生存システム」が極端な形で反応しているだけです。


🌀 解離・アイデンティティ崩壊との関係

発狂感はしばしば「解離」とも深く関連します。
それは、心が現実や自分の身体、思考から切り離される現象です。

特に2つのタイプがあります:

  • 離人感(Depersonalization)
     → 自分が自分でない感じ。まるで外から自分を見ているような感覚。
  • 現実感消失(Derealization)
     → 風景がフィルター越しにあるように感じる。夢の中のような現実感のなさ。

こうした症状は、脳が強いストレスから身を守るために感覚をシャットダウンしようとする働きの一部と考えられています(Sierra & David, 2011)。
扁桃体や島皮質、前頭前野の間のバランス異常が関与しているとされます。

あなたの中で「自分が壊れる」という恐怖は、実際には壊れまいとする脳の必死の防衛反応かもしれません。


📈 不安スパイクとはなにか?

「突然、心拍数が上がり、呼吸が浅くなって、思考が暴走し、発狂するかのような感覚」
この状態を**不安スパイク(anxiety spike)と呼びます。

これにはトリガーが存在します。

  • 寝る前の静けさ
  • ある映像、言葉、記憶
  • 空腹、疲労、カフェイン
  • 心の中の「なんとなく不安」という無名の予兆

このようなトリガーが、扁桃体を刺激して脳が「生存の危機」と勘違いしてしまうのです。


🧭 「発狂感」は敵ではない

ここまでの話をまとめると、
あなたが「壊れそう」と感じる瞬間は、次のような状態です。

  • 脳の恐怖回路が暴走している
  • 身体は「戦闘モード」に入っている
  • 理性は機能低下している
  • そのため、現実感や自己感が薄れ、「発狂する感覚」が生まれている

でも、それは病的な狂気の始まりではありません。
あなたの脳が「全力で生き延びようとしている反応」なのです。

これを知ることが、第一の対処法です。


📎 次回予告

次回は、実際にこのような「発狂しそうな時」に
身体と呼吸を使って落ち着きを取り戻す具体的な方法を学びます。

あなたの脳と身体は、正しくケアすれば、必ず応えてくれます。


🔗 出典一覧(参考文献)

  • Gorman JM et al. (2000). Neuroanatomical Hypothesis of Panic Disorder. Am J Psychiatry
  • Wilkhoo HS et al. (2024). Depersonalization-Derealization Disorder. NCBI PMC
  • Sierra M, David AS. (2011). Depersonalization: A Selective Impairment of Self-Awareness. Consciousness and Cognition
  • Harvard Health (2024). Understanding the Stress Response. Harvard Health

🧪 ワークシート:不安スパイクを見つける